繭と土
小谷野さんがカブトムシは蛹になることを知らなかったか忘れたかしていた話には、私はちょっと驚いてしまって、もちろん男の子はこういうことに興味をもつものだという私の前提がジェンダーにとらわれたものだというのは承知しているが、それならばなぜ変態についての分類が解説されるのだろうという疑問が追って出る。こちらのほうこそ私は知らなかったか忘れたかしていた。
あんなにヘーゲル式の歴史分類についてインチキだとさかんに繰り返すのに、自然のことになるとどうして自然が整然と分類されていると思えるのだろうというわけ。
繭をつくらない蛹になる完全変態という表現もなにか不思議で、かえって蛾だけが繭をつくるものだと思うのだが(もちろん虫についての細かい知識を私はもっていないので蛾の仲間以外で繭をつくるものがいるのかもしれない)、蝶だって蛹は繭を伴わない。繭と蛹が不可分であるかのように前提しているのだろうか。
カブトムシは蛹の状態を土のなかで過ごすが、蛹というのは要するに捕食を休んで体をつくるための時期であるようで、虫の卵生や幼虫というのは、大量にかつ低エネルギーで子孫を産出するための工夫(といっても偶然と自然選択のたまもの)なのだということがよくわかる。
なにも虫にかぎらず人間もまた子供を小さく産んで大きく育てていく。体質的にヒトは幼少期にカロリーをためておくことができないから蛹にはなれないが、繭のかわりに(現代日本では)個室があって、そのなかでさなぎのように生きてみたりする。