『大衆の反逆』

大衆という言葉を、私はよくわからないままに使っていたが、オルテガはどうやら、自分の知っていることだけで世界を判断してしまう短慮の持ち主のことを大衆であるとしていたようである。人が多くいるだけでは大衆ではないだろう。


知識はかならず固定的なものであるのだから、どうしても現実そのものをとらえることはできない。なのにその知識に依存してものを考えたり判断したりすることは躓きのもとであるわけだ。現在の世相における反原発知識人を想像するといいだろうか。


よってオルテガの政治原理は貴族主義的なものになる。高みを求めて、そして必ず限界を迎えて朽ち果てる悲劇的な生き方をエリートは選ばなければならない。


まえにも書いたかもしれないが、オルテガがこの本を書いた当時のファシズムやボルシェヴィズム、スターリニズムが先進的な思想であったことに注意しなければならない。戦後十年ほどしてオルテガは死ぬが、戦争のあとに展開した平和の原理、大衆の原理にオルテガは敗北を感じたことだろう。


大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)

大衆の反逆 (ちくま学芸文庫)