『へんげ』をオススメする


気がついてみたら、私はずいぶん長い間、変身ということを、ある状態Aからべつの状態Bに遷移すること、というふうに一面的に了解していて、去年の春ごろ、一般よりも一足先にこの映画『へんげ』を拝見させてもらうことで、私はその思い込みに気付かされたのである。


よく考えたら変身に落としどころがある保証などどこにもない。私たち生物はいつか死ぬけれども、それはなにか人生という物語の完成であるとか、そういうことを意味しない。細胞分裂のパターンを展開しつくし、器官が老化して塞がれたり破かれたりし、そして機能を維持できなくなって滅んでいくだけである。現実に生きる私たち自身が「へんげ」し続けているのだ。


「変化」はもしかしたら成長とはなんの関わりもない事象でしかないのかもしれない。そう思うと、私たちはよりどころを失った恐怖感に訪れられて、いてもたってもいられなくなってくる。そういう不安を和らげるのが、心、つまり、愛による支えあいであって、この映画は、開巻後すぐに自らが「愛の物語」であることを観客に高らかに宣言する。


変化していく主人公たちに介入する「後輩」への処遇を、彼らが決断するシーンがことのほか素晴らしい。ここで夫婦は、完全に境界の外へと踏み越える。後輩の「止(と)めてください!」って、いい台詞だと思うのだ。人間が人間にたいして呼びかける最後の言葉。しかし、呼びかけられた妻は、夫に頷くことで人間であることを静かにやめる。あとは止めどもないへんげの過程を、観客はひたすら呆然として享受するのである。必見!!


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