血を吸うカメラ

フランケンシュタインものの変種。

この映画の主人公は「冷酷な殺人鬼」ではない。刑事の会話から判断すると、彼は三人しか殺していない(しか、というのもなんだが)。青年の主人公が、少年期からのやむにやまれぬオブセッションをとうとう開放してしまったところから物語ははじまり、ほどなく終わる。

主人公が映像にのめり込むのは、フロイトを持ち出すまでもなく、自己を父親に同一化させる行為である(父親の映像だけピンボケになるのは不気味だ)。とりあえずは、この主人公は性的ではないようだ。ポルノ写真の撮影という、性的なシチュエーションにあってももくもくと撮影をこなすだけで、モデルから呆れられる。

閉じきった主人公のこころに光をさしこむヒロインの母親が盲人で、主人公の異常さを誰よりも克明に「見抜く」という脚本は素晴らしい。見るということにたいする洞察が掘り下げられている。

主人公が自殺を思い立った理由は、ヒロインの母親から「その不健全さを直すまで娘に会うな」と言い渡された(しかし主人公が具体的にどう不健全なのか盲人である母親は知らない)主人公が、精神科医に「全快に二年かかる」といわれて落胆したからだ。わかりやすいように、主人公が期待をもっているときはエレベーターで上昇し、落胆したら下降する、という演出が施されている。そして、三件目の殺人によって、自分が死なない限り人殺しがやめられないことを、主人公は悟ってしまった。

血を吸うカメラ [DVD]

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