『弓』
肉体をながらえさせるためだけならば、じつは言葉は必要ないわけで、この「父娘」がまったく声をださないのは、そういう理由からだ。占いの託宣を観客が知り得ないのも、おなじ理由による。
儀式として礼服を着れば、祝「詞」すら必要ではない。その「こと」が重要であるのなら、「こと」のすんだ後に自殺すれば、事後的にそれが儀式であったことが確定される。ある人が、その生の最後にしたことが重要でないはずがない。
現世にたいするギドクの冷笑が、ひとつの頂点にたっしたかのようだ。すばらしい映画である。
映画の後半にいたるまで、観客も、劇中の青年も、釣り船のオヤジを、しょうもねえ好色漢だとおもっている。それがひっかけなのであって、「結婚」とは、まさに少女を女にするという以上の意味をもたない儀式なのであった。ポイント・オブ・ノーリターンを虚空から飛来した矢がつらぬき、青年と女をのせた舟は乳白色の霧のなかをただよっていく…。
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