『その土曜日、7時58分』

監督は八十四歳でこの作品を撮ったらしい。すごい。『グラン・トリノ』ばかりではなく、こっちも褒めなきゃダメ。

映像がきたないなとおもっていたら、やはりビデオ収録だった。ハリウッドがどんどん傾斜していく。しかし内容はちゃんとある。

音楽が同じ人なので『ノーカントリー』をぼんやり思い出していたが、これ、父殺しが失敗する話なのかと思っていたら、子殺しの話なのな。

私は子殺しを思う父親の気持ちなんてわからなかったが、年齢的にすこしは想像がつくようになってきたので、この映画は面白かった。イーストウッドは、結局のところ、子供でない相手を子供扱いにして父親のふりばかりしていたのだが(要するに、女に頭を下げることなく子供だけは欲しいと考える男なんだよ、イーストウッドは)、シドニー・ルメットは父であることをごく真面目に考え続けていたわけだ、そういえば『十二人の怒れる男』のときから。

父親に改悛されてから、息子であるフィリップ・シーモア・ホフマンの自我がおかしくなって、それまで避けていた人殺しをばしばし実行しはじめる。父なる神のごとく小悪党たちに鉄槌を下すのだ。この心理のメカニズムが面白い。イーストウッドの世界には「父」も「子」も、まがいものしか存在しないから、こういうドラマは描けない。