イエスの教えとキリスト教

おなじく『ひとを愛することができない』のなかで、中島は「汝の敵を愛せ」という有名な文句にもけちをつけているのだが、私はマタイ福音書の山上の垂訓のあたりを通して読んでみて、違う印象を持った。

 イエスは、人に、神を愛せ、神に帰依しろと教えたわけで、神は万人を統べている。神のように完全になれと命じている。異教徒の立場に立ってみろという中島の指摘は、的をはずしているだろう。「愛するものを愛したとてなんの報いがあろうか」。ここだけ切り出すとまるで中島ギドーの発言のようだが、そうではなく、これはイエスが言ったのである。

 とはいえキリスト教は異教徒を迫害したが、じつは(と断るまでもないが)イエスの言行とキリスト教は関係ないのである。