再生「産」

『冷たい雨…』の終盤で、広場のテーブルで憩う組織のボスの前にドレスの女が出てきて媚態をふりまくシーンがあって、女は臨月間近なのにボスははじめはそれに気づかない。映画ならではのシーンである。このシーンは映画冒頭の、ボスの愛人が彼を裏切って男と密会しているシーンを逆転させたものである。どちらもボスは女によって裏切られるのだが、冒頭のそれはボスの了解の範囲内にある裏切りで、後者はそうではないどころかボスの命取りになる。性の独占にかんする欲望が、物語の鍵になっている。性の独占を目指してボスの暴力は発揮され、そもそも独占から免れていた性の対象(つまり妊娠していた)まで自分の獲物と誤認するのである。ボスはふいをつかれたように自分の性向を自覚させられてつい自嘲の笑みをもらす。ボスに死の時が迫っている。