小島信夫

君が代』が棚から私にうらめしげなまなざしをなげかけている。

小島信夫現代文学の進退』(1970.5)を借り出したのである。この時点で小島信夫は55歳である。教師家業をずっとつづけ、学園紛争に遭遇してもいる。期するところがあって、学生に「猫なで声」をかけたら、かえって敬遠されたらしい。「教師と学生」(初出『新潮』S43.11)が興味深かったのである。

江藤淳についての文章もある。「死ぬときぐらいひとりで死なせてくれ、というような言葉は、誰に対してそうなのか分からぬが、とにかくかなり手きびしい言葉だ。私は、自分ではちょっと使えない、と思う(204ページ)」。このすぐまえには「何か江藤氏の年齢をこえた言葉のようにさえ見えはしないか」ともある。江藤が自殺する30年ちょっとまえの文章である。親しかったはずの友人にたいする辞去の書としての『自由と禁忌』…。