小島信夫と高橋源一郎とテレビジョン

現代文学の進退』に「なぜテレビのそばを離れないか」という文章があって、読んでいてふと高橋源一郎のことを連想した。

ちょっと長く引用する。

私はある日テレビに自分がうつることになったとき、一応ことわったが、私が大へんにイバっているように思われる気配があったので、仕方なく十分間ひとりでしゃべることになった。私の前にあるカメラに向かっているうちに、タイクツなのか助手が漫画読本を読んでいるのが分かると、だんだん気になってきた。そのうち彼がクスクス忍び笑いをしはじめたときには、もう私は、誰よりもその男に話しかけ、叫びたくなってきた。(『現代文学の進退』243ページ)


些細なこと(じつはそうでもない)だが、「しゃべることになった」ではなく、「しゃべることにした」であろう。さて、いじわるな私は、ここでも「それ本当なの?」と疑問をいだくのである。「話しかけ、叫びたくなってきた」って、本当なの? と。

江川卓が司会するスポーツ番組の解説者?として高橋源一郎がテレビに出たとき、なぜこんなことをするのか私にはよくわからなかったのだが(もちろん競馬について文章を書いていたからという「通りやすい理屈」はあった)、高橋自身ががこういう経験を積みたかったのだろうなと、小島の文章を読んで思い至った次第。