『男たちの大和』主人公の「失意」の人生

まえにテレビ放送で一部分だけ見たときは、あまり感想が浮かばなくて、仲代達矢が実年齢よりも年長の役を演じていることがちょっと印象に残ったくらいだったが、今度全編を拝見したらなかなか興味深い作品だと思ったのだ。


老年期を仲代が演じる神尾は、少年時代は海軍兵士で、上官の内田らに助けられて沈没した戦艦から生還し、人並みの人生を全うしつつあったのだが、死んだとばかり思っていた内田も実は生きていて、孤児を育てていた。そして内田は老いて死に、「遺児」のひとりが遺灰を軍艦の沈没地点に散骨しようとする。遺児はその流れで神尾老人と知り合い、神尾は内田の人生を知らされる。内田の尊敬すべき後半生が、神尾の人生を照り返す格好となり、神尾は老境にいたってやっと生き残った者のなすべきことを悟り、その気付きのあまりの遅さを悔いて泣き崩れる。


戦後を直接描かないことで、かえって戦後を論評しているわけである。『男たちの大和』公開のころの東映作品『半落ち』などをも連想する。『男たちの大和』は、自己犠牲と奉仕、そして恋人を若くして失ったある男の失意の人生についての物語だったわけだ。


映画のみてくれは『タイタニック』と『プライベート・ライアン』を足したような作品だったが、この物語はなかなかいいと思うのである。両作品よりもよほど知的で、情操も豊かなものだ。