蓮實重彦と筒井康隆

蓮實重彦筒井康隆とのあいだに横たわる不思議な静寂が気にかかる。
「玄笑地帯」と「シネマの煽動装置」はほぼ同じ頃に世に出て、後者の習作に当たる「シネマの記憶装置」は79年ごろの出版なのだが、筒井がこれらを読んでいない・手にとっていないというのはとても考えにくい話だ。とはいえ段落のない小説などヌーヴォー・ロマンなどには珍しくないし、なにより「玄笑地帯」というタイトルが「陥没地帯」のもじりなのかもしれない。
文学部唯野教授」を蓮實重彦がどう思ったのか興味あるところだが、どこかでコメントしているのかもしれないが、論じるほどには至っていない。他の筒井作品もまず黙殺していて、筒井の阪神大震災被災時のインタビューに皮肉を言ったことが目立つ程度。
筒井康隆蓮實重彦の文字を綴ったことが一回は確認されていて、戦前の映画「カナリア殺人事件」のリバイバル運動の賛同者一覧の中に蓮實重彦の文字をまぎれこませている。
読めばいいというのが表層批評の極意だが、買ってくれればいいというのがプロの作家の矜持なわけで、蓮實重彦筒井康隆には、共闘する余地も反目する所以もともにある。
実は仲がよかったりすると、たいへん野次馬ごころをそそるところなのだが…。