2012-01-01から1年間の記事一覧

『乾いた花』(と、『メランコリア』)

かなり特殊なやくざ映画で、やくざの悲しみとか無理解な親分への反抗とか、そういうやくざ映画の定型らしきものはいっさい描かれない。たいていの物事への関心を失った主人公が、唯一自分に興奮を与えてくれる物事、つまりリスクをかえりみず無軌道に生きる…

「くさい」と「見ていられない」のか?

http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20120301 なぜ過剰な演技などを「くさい」というのだろうということを少し考えたが、これはその演技が表面上は間違っていないからなのではないだろうか。表面上は、ということはつまり視覚的には、ということである。 つ…

わずらわしさから遠ざかった結果

週刊朝日の北原みのりの傍聴記を読んだのだが、婚活殺人の容疑者の話ができすぎていて眉唾な気がする。私が読んだ号では、肉体関係なしに金を貢ぐ男というのが容疑者にいて、与えられるがままにその被害者から金を受け取っていたそうなのだが、容疑者は独居…

『それから』(森田芳光)

洋画の『卒業』を連想した。保護されているということは、反面、幽閉されているということでもある。臆病で卑怯で、かつ知恵のまわるところがある主人公は、自分があたえられた状況を、さも自分が望み仕組んだ結果であるかのように自己欺瞞していて、その嘘…

『アナザー・プラネット』

『メランコリア』とビジュアルが似通っていたので、つい好奇心を刺激されてiTunesストアでレンタルしてみた。 低予算映画である。地球の近くに地球そっくりの惑星が出現したという設定の現代、主人公の女学生は飲酒運転で交通事故を起こし作曲家の家族を死な…

映像生活

ネットをWiFiに替えたのに合わせて、映画のレンタルもiTunesストアからの配信にきりかえた。借りたソフトを返却しに行かなくて済むというのは、らくちんでいい。 家庭での映像視聴にハイデフ・ハイファイを要求するたちではないので、ロースペックの映像で十…

『ヒアアフター』

『J・エドガー』もそうだったが、秘密をもった少数者がつどって連帯をむすぶモチーフが、イーストウッドは本当に好きなのだろうな、と思う。彼にとって映画的であると感じられるモチーフは、わりとチャップリンのそれに近いような気がするのだ。『ヒアアフタ…

不思議なエッセイ

http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20120222 「しかし石原は不満たらたらで」がいつの時期なのかよくわからない。高坂との対談記事が出たのが1971年だったら、三島由紀夫は石原を諌め様がないからだ。

『インフォーマント!』

未見だったソダーバーグ監督作をぽちぽちと見ている。 自分の失策から会社の目をそらすために、会社重役である主人公は架空の産業スパイの存在をでっち上げ、まんまと騙された会社はFBIに捜査を依頼する。自分の嘘がばれることを恐れた主人公は、本丸である…

『メランコリア』

なんだか人がたくさん死ぬ映画ばかり見ているような気がするが…。 そういうことを考える必要は本当はないのだろうが、この映画をどう見れば、つまりどう受け取ればいいのか、ちょっと考え込んでしまったのである。 自分の披露宴をみずからぶち壊した花嫁が、…

『男たちの大和』主人公の「失意」の人生

まえにテレビ放送で一部分だけ見たときは、あまり感想が浮かばなくて、仲代達矢が実年齢よりも年長の役を演じていることがちょっと印象に残ったくらいだったが、今度全編を拝見したらなかなか興味深い作品だと思ったのだ。 老年期を仲代が演じる神尾は、少年…

『生きてるものはいないのか』

舞台で俳優が「大量死」していくというのは面白い趣向なのかもしれないが、それを映画にすると普通になってしまう。難しいところだ。 パニック状況の中で、倫理観が麻痺した人物が死にたがっている人間を絞殺する。このくだりはちょっと面白いと思ったが、と…

『真幸くあらば』、『ドラゴン・タトゥーの女』、などなど

YouTubeで、シリアだかリビアだかの処刑現場をカメラがおさめた動画を見た。撮影者なのか、周囲の人物なのか、とにかく画面外から興奮した調子で、男がわめきつづけている。もちろん何を言っているのか、わたしにはさっぱりわからず、英語でないことが了解で…

『へんげ』をオススメする

気がついてみたら、私はずいぶん長い間、変身ということを、ある状態Aからべつの状態Bに遷移すること、というふうに一面的に了解していて、去年の春ごろ、一般よりも一足先にこの映画『へんげ』を拝見させてもらうことで、私はその思い込みに気付かされたの…

文庫本という言葉

http://d.hatena.ne.jp/jun-jun1965/20120126 文庫本も単行本であるという表現は、省略がきつい小谷野さんのいつもの癖がまた出たもので、「藝の略字である芸という文字は藝と正反対の意味をもつ本字の芸(ウン)と形が同じになってしまっている」ということ…

ニーチェと大島渚と佐藤真

この暮れには、ずっと岩波文庫の『ツァラトゥストラはこう言った』を読んでいて、これは深田晃司くんの『東京人間喜劇』という映画に、この本(つまり岩波文庫のこの版ということ)が出てくるので、映画の理解を深めるつもりで、本を手に取ったのだが、これ…

アミール・ナデリ監督作『CUT』が素晴らしかった

きょう新宿三丁目駅最寄の劇場シネマート新宿で映画『CUT』を観た。監督アミール・ナデリ、主演西島秀俊。劇場には監督のナデリが来ていて、ロビーで、パンフレットを購入した観客へのサービスで、マジックペンでサインをしてくれた。私の名前のつづりをナデ…