2009-05-01から1ヶ月間の記事一覧

性的半幻論 その二

性幻想が、補強されたり訂正されたりする。だから性的半幻論なのである。社会と個人の間には、階層があっても、言葉の壁はないことになっている。もし言葉が通じない個体が社会に紛れ込んだら、最悪、暴力によってその個体をこづきまわす事態になってしまう…

『荒野のストレンジャー』

復讐の話がいかにも楽しげである。あてつけの爽快感。荒野のストレンジャー【ユニバーサル・セレクション1500円キャンペーン/2009年第4弾:初回生産限定】 [DVD]出版社/メーカー: ユニバーサル・ピクチャーズ・ジャパン発売日: 2009/05/09メディア: DVD クリ…

『性的唯幻論序説 改訂版』

国家論や史的唯幻論は納得できるのである、国家や歴史には身体がないから。しかし性は心と体にわたる領域だから、「唯」幻論というわけにはいかないのではないだろうか。幼児だって陰茎は勃起するわけで、親やその他の大人の監視がゆるい状況にあったら、子…

『ヴァイブレータ』

主人公は、観察してしまう人物なのである。他人をただただ観察するし、「内なる声」にも、なすすべなく引きずられる。主人公は、自分で自分の殻を壊す作業が必要だった。そして、それはひとりでする作業ではない。だれかがその壊れるさまを見届けなくてはな…

『グラン・トリノ』は凡作である

姉を犯されて復讐にはやる少年を、イーストウッドは自宅地下室に閉じ込めて、人を殺す気分がいいものであるはずはないなどと説教をするのだが、ここはどうもイーストウッドに似合わず芸がなくて直接的でありすぎる。もしかしたら1990年代生まれの観客にも伝…

センシュアル・マン

スピリチュアル・マンの反対というわけですね。「俗人」というのも、あんまり訳し得ていない気がするが…。「あさはかな人」というのが好きだが、これは訳し過ぎか。追記。世俗革命がすすんでいるから「精神的な人」にたいするニュアンスが、透谷の時代とはど…

『絶対の愛』

文章には「文体」があるのに、なぜ心には体がないのだろう?エンディングの道行く群衆は、なんだか意味深。わたしたち観客もまた、群衆なのだ。群衆の視線が、画面のセックスシーンに釘付けになる。あるいは、ならない。私的な写真は怖い。写真のなかのツー…

『ゴジラ対メガロ』

フィルムセンターで。さすがにこの歳で見通すのはつらい。

『狼の紋章』

太陽と月で、月が狼族のよりどころだからか、敵の象徴として日の丸が扱われ、それがイメージの連鎖をたすけて、敵役の松田優作が学ランか軍隊式の礼服あるいは褌一本のコスチュームで登場し、主役の狼男志垣太郎はジージャンとジーパンのまま。主人公は、変…

貶めあう「愛情」(『その男、凶暴につき』)

夏が舞台だと思い込んでいたが春の話だった(みなジャケットを着用し、人事異動がある)。『ノーカントリー』を通過した今みなおすと、白竜の殺し屋ぶりが興味深い。ハビエル・バルデムとちがって、白竜は自分の残酷さ、凶暴さの根拠として岸部一徳に依存し…

近代美術館に行った

岸田劉生の『切通之写生』が好き。

風景としてのロック、風景としての…

『イージーライダー』が例外としてポコッと存在しているだけで、ロック単体が映画の風景、BGMになるのは、案外遅かった。ビートルズにはクラシックの教養があるアレンジャーがついていて、だから後期のアルバムがああなった。ロックはあくまで主役、フィーチ…

『スラムドッグ$ミリオネア』

たしかに面白い。できすぎた物語。新興国の悲惨。純愛。お金より心。二時間ぴったりの上映時間内にいろいろつめこんでいるわけだ。『ザ・ビーチ』で観客から「アホか」と思われて、ダニー・ボイルは十年ちかく暗かったわけだが、こんなに「明るい」とこちら…

つまらないことが気になる…

『アキレスと亀』で、中尾彬が自分とそっくりな芸者と心中するのだけれど、やはり、もっと別嬪な芸者に心中をもちかけて振られたのでしかたなくあの芸者にしたのだろうか(未見の人は是非見てほしい)。それだと普通すぎるよな。もしかすると、中尾はあの芸…

『オーディション』

十年ぶりに再見。原作がどうだったのかすっかり忘れてしまったが、この映画版はまともな人間であるとはどういうことかということへの考察に満ちていて面白い。主人公の甲斐性をうらやむ根岸季衣演じるお手伝いさんや、主人公が一度だけ関係をもったせいでは…

『弓』

肉体をながらえさせるためだけならば、じつは言葉は必要ないわけで、この「父娘」がまったく声をださないのは、そういう理由からだ。占いの託宣を観客が知り得ないのも、おなじ理由による。儀式として礼服を着れば、祝「詞」すら必要ではない。その「こと」…

『アキレスと亀』

なんと戦後についての映画だった。『タケシズ』や『監督・ばんざい!』は自分についての映画だったから、バランスをとったということだろうか。北野武が自分の若者時代が大嫌いだったろうことは、美大サークルのシーンをみると容易に想像がつく。無責任には…

『カメレオン』

これは面白かった。カメレオン座って、星座のことだけではなくて芝居の「一座」というのもかけているのかな。谷啓が人事部長ってことはないだろうよ、と思いながら見ていたら、しっかり騙されたわけだ。若いキャラたちのほうが、うつ病をわずらってたり、老…

過去と未来しかない「人間」

予定を立てることで人間は未来を現在に変換しているというのは養老先生の説だけれど、自分の生活をそういうふうにするからこそ、人の頭は、つまり言説の内容は過去と未来に振り分けられてしまう。現在についての話はプライバシーに障るというわけ。戦争がお…

芸事

踊りというのは五感のどれを駆使しているのかなと思ったら、やはりこれも視聴覚なのかとおもった。他人の踊りを見て、反復しなくては踊りなんて身に付かないし、踊りのセンスは音楽のセンスにかかわるだろう。ということは、芸事というのは一般に視聴覚に依…

「文学好き」

前に、人と話をしていて、相手がこちらの話柄をいぶかって「まるで文学青年じゃない」と聞いてきたので、実はそうでもないのだが、話の流れにしたがって「そうだよ」と答えたら、鼻で笑われたことがあった。小谷野さんが、「村上春樹をよく読むのは若者」と…

『トリコロール 青の愛』

知識と希望と愛があるとしたら愛が他より優先する。まあ、たしかにそのとおりだと思う。すでにそこにあるものを信任しないと何もはじまらない。知識が過去、希望が未来としたら、愛は現在というところか。事故によって、主人公は社会に確固とした地位を築い…

死体袋

『グラン・トリノ』のある登場人物が銃で撃たれて(しらじらしいな、俺)、倒れて、死体袋に入れられて、葬儀会場で蓋をしないままの棺に入っていて、という一連のシーンがつづけて流れるのだけれど、私は見ていて、お、なんだかイレギュラーなことが画面に…

『新宿インシデント』

都市論と身体論の格好の教材のようで、興味深かったし、面白かった。編集が流麗すぎて、どうも数年あるいは十年くらいにわたる物語のようなのだが、そういう感じがしない。竹中直人たちがシーンごとに老けメイクすればよかったのではないか。余裕と落ち着き…